陰謀論について

先日取り上げた、『日米同盟の正体 迷走する安全保障』から陰謀論(陰謀説)に関するメモ。
外交に直に関わった人の言葉だから、その辺のブロガーの知った風よりはよっぽど説得力があると思われ。

陰謀論の行使には大別二つある。一つは偽旗工作(false flag operation)と呼ばれるものである。このケースは敵に成りすまして行動し、結果を敵になすりつける。(中略)第二は敵が攻撃に出る際、敵の行動を誘導し、間接的にその実現を支援する。真珠湾攻撃は後者に属する。9・11同時多発テロに関しても後者との関連がしばしば指摘される。(67-68ページ)

第一章で、日本人は戦略的な思考が弱いことを見た。特に、謀略、陰謀論的な動きが出ると、「それはあり得ないでしょう」と思考を停止する。そもそも陰謀論的動きは発覚しないことを目指している。謀略は通常人的犠牲を払い、その犠牲に対する怒りを利用して目標を達成する。犠牲者を考えれば、謀略を行ったとは口が裂けてもいえない。当然責任者は否定する。百パーセントの確証が出ることはない。こうして信頼に足る人は陰謀論に手をつけない。ますます、日本人は陰謀・謀略を理解できなくなる。(69ページ)

第一章冒頭で紹介したニクソンの『指導者とは』を再度、見ていただきたい。陰謀論をはねつけることの危険性が理解できるだろう。
ニクソンもまた、指導者の資格で、「権謀術数は指導者になくてはならない」と述べ、ルーズベルトリンカーンを引用している。(70ページ)

ちなみに、ニクソン『指導者とは』からの引用は次の通り(一部のみ)

権謀術数などは一般的にあくとされるが、指導者にはそれはなくてはならない。(中略)ルーズベルトは、絶対に参戦しないと公約しながら、密かに戦争準備を進めたのだった。(中略)権謀術数を用いなければ、大事に当たって目的を達成できない場合が多いのである。(後略)(24ページ)

そして陰謀論の具体的事例として、ベトナム戦争のきっかけとなったトンキン湾事件と、(ケネディに却下され実現はしなかった)キューバ攻撃を意図して計画されたノースウッド作戦が取り上げられている。

戦争は人命の損失を前提とする。人命のやり取りを是認する現在の国際関係において、陰謀、謀が存在するのは自然なことだろう。各国は自己の国益に基づいて陰謀、謀を行っている。しかし、陰謀、謀をされる国にとっては、武力を使われるより、厳しいものがある。第二次大戦後CIAは米国国内で本当に必要なのかと幾度となく批判され、その存在を脅かされた。そのときCIAが言う台詞がある。「戦後の日本を見てくれ。われわれの工作の傑作である」。春名幹夫氏は『秘密のファイル』(上・下)で、CIAの対日工作を記している。(83ページ)

しかし、日本のどこに陰謀・謀を真剣に学んでいるところがあるだろう。官庁にない。大学にない。研究機関にもない。ときどき、いかがわしい書籍が出て陰謀論を解き、知識階級はますます陰謀論を馬鹿にして遠ざかる。日本に対して「謀」を仕掛ける国からすれば、日本人が陰謀論、謀を一笑に付して、知識層がそうした戦略に何の考慮も払わないことくらいありがたいことはない。(84ページ)

一笑に付されるどころか、陰謀論疑似科学とほとんど変わらないものとして、ちょっとでも陰謀論めいたことを述べるとどこからともなく陰謀論バッシングが沸いてきますからねぇ…
これもCIAの対日工作の成果なのでしょうか?
だとしたら、やはりCIAの「戦後の日本を見てくれ。われわれの工作の傑作である」は正しいと言わざるを得ませんねぇ。